お役立ち情報 Useful information

全3回連載|第1回 90歳・独居オーナーとの出会いから始まった、新しい賃貸管理のかたち

はじめに ― 今回から少し違うテーマをお届けします

これまで当社のコラムでは、賃貸経営や物件管理など、不動産に関する情報を中心にお届
けしてきました。
今回から 3 回にわたり、少し視点を変えたテーマを取り上げます。
それは、
「オーナー様ご自身に何かあったとき、賃貸経営をどう守るのか」
という問題です。
賃貸経営というと、空室、家賃、修繕、入居者対応など、「物件」に目が向きがちです。
しかし、賃貸経営について最終的に判断するのはオーナー様ご本人です。
年齢を重ねれば、身体機能が低下することもあれば、認知機能が低下することもありま
す。

両方が同時に進むこともあれば、身体は元気でも認知症が進行することもあります。
急な入院ということもあります。
つまり、

物件に問題がなくても、オーナー様側の事情によって賃貸経営が止まってしまう
可能性があります。


この問題を私自身が強く意識するようになったのは、ある 90 歳のオーナー様との再会が
きっかけでした。
「そろそろ管理を任せる時期ではないだろうか」
その方は、東京都内に賃貸オフィス・マンションを所有し、ご自身で管理されている 90
歳の女性オーナー様でした。
お一人暮らしです。
以前の勤務先で数年前に 2 度ほどお会いしたことがありました。
高齢で自主管理をされていたことから、
「そろそろ管理会社に任せることを考えていらっしゃるのではないか」
と思い、久しぶりに訪問しました。
ですから、最初の目的はあくまで賃貸管理のご提案でした。
ところが、お会いしてみると、以前とは少し様子が違いました。
身体機能の低下が見受けられたのです。
そこで管理の話を急ぐのではなく、現在の生活や健康状態についてお話を伺いました。
すると、内臓疾患により検査入院されていたことも分かってきました。
ここから、当初想定していた「管理を任せませんか」という話とは、まったく違う方向へ
話が広がっていきます。


問題は「管理」だけではありませんでした。
もし、このオーナー様が急に入院されたらどうなるでしょうか。


入居者対応はどうするのか。
修繕が必要になったら誰が判断するのか。
契約に関する手続きはどうするのか。
さらに身体機能が低下した場合、今後の生活を誰に相談するのか。
そして、身体は元気でも認知症が進行したら、大切な不動産や預貯金はどうなるのか。
一つずつ考えていくと、これは単なる「賃貸管理の問題」ではありませんでした。
賃貸経営、介護、認知症への備え、財産管理が、すべてつながっていたのです。


そこで、私が考えたこと
私は以前、デイサービスを経営していました。
そのため、このケースで介護の視点から何が必要になる可能性があるのかを考えることが
できました。
例えば、身体状況から介護保険の申請を検討すること。
必要になれば地域包括支援センターと連携すること。
ケアマネジャーを選ぶ際にも、単に「誰でもよい」ということではありません。
賃貸不動産を所有しているオーナー様ですから、ご本人がこれからどのように暮らしたい
のかだけでなく、賃貸経営をどう継続していきたいのかも考える必要があります。

必要であれば、サービス担当者会議(ケアプラン作成に必要な会議)にも参加し、オーナ
ー様の意向がケアプランに反映されるよう支援する。
急な入院の場合には、担当医やソーシャルワーカーとの連携も考える。
退院後、在宅復帰であれば、その後の生活まで考える。


一方で、これは介護だけの問題でもありません。
身体が元気でも、認知症は進むことがあります
ここは、高齢の不動産オーナー様にぜひ知っていただきたい点です。
身体機能の低下と認知症は、必ずしも同じように進むわけではありません。
元気に歩き、日常生活を送れていても、認知機能だけが低下する場合があります。
賃貸不動産を所有している方の場合、ここには別の問題があります。
判断能力が低下してからでは、不動産の管理や処分について、ご本人やご家族が希望する
方法を自由に選べなくなる可能性があるからです。
そこで、まだ元気で判断能力がある段階で、家族信託や任意後見などを含め、将来の財産
管理について考えておくことが重要になります。

このオーナー様にも、認知症による資産凍結を避けるため、家族信託という選択肢をご説
明しました。
「独居だから家族信託はできない」とは限りません。
状況に応じて受託者をどうするかを含め、専門職と一緒に方法を検討することができま
す。


ここで、一つのことに気付きました。
介護だけを知っていても、この問題は解決できません。
家族信託だけを知っていても同じです。
そして、賃貸管理だけを知っていても十分ではありません。
必要なのは、
オーナー様ご本人を中心にして、賃貸管理・介護・財産保全を組み合わせること。
しかも、順番は人によって違います。
身体機能の低下から始まる方。
認知症への備えが先の方。
急な入院から始まる方。
相続について考えることがきっかけになる方。
一本道のサービスでは対応できません。
この 90 歳のオーナー様への問題解決を考える中で、私は初めて、
「これまで自分が別々の業界で経験してきたことを組み合わせれば、高齢オーナー様特有
の問題を一つの窓口で支援できるのではないか」

と考えるようになりました。


これが、現在当社で提供している「シニアサポートプラン」誕生の原点です。
なお、このオーナー様から管理を受託したわけではありません。
ただ、ご提案した内容について大変喜んでいただき、後日お礼の手紙とメールもいただき
ました。
契約以上に、私自身がこの仕事の新しい可能性に気付かせていただいた出来事でした。


【今回のお役立ち情報】
高齢オーナー様に、まず確認していただきたい 5 項目
□ 急に入院した場合、賃貸経営について管理会社と話せる人はいますか?
□ ご家族や信頼できる方は、所有物件や賃貸経営の状況を把握していますか?
□ 判断能力が低下した場合、誰が不動産管理や修繕などを判断するか決まっていますか?
□ 認知症になる前の財産管理について、家族信託や任意後見などを検討したことがありま
すか?
□ 身体機能が低下した場合、介護について相談できる先をご存じですか?


一つでも「分からない」があれば、今すぐ何かを契約する必要はありません。
まずは、元気なうちに現状を整理しておくことが第一歩です。
選択肢を持てるのは、まだご自身で意思決定できる今だからです。


次回
「不動産」と「介護」。まったく異なる経験が、なぜ一つにつながったのか。
次回は、「不動産資産を守る視点」と「高齢オーナー本人を支える視点」が、どのように
一つにつながったのかをお話しします。

▶ 第2回コラムはこちら

この記事を書いた人

株式会社郵宣企画 髙木 正浩
大手不動産会社での賃貸仲介、賃貸管理、不動産流動化・不動産証券化(私募ファンド/規模100億円)、アセットマネジメント・プロパティマネジメントでの幅広い経験を生かし、多くの賃貸経営問題を解決。

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